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帰れない夜

神野守huatong
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帰れない夜

このお話は、日野美歌さんの

「氷雨(ひさめ)」を

元にしています

パート 高橋健治役〇〇です

パート 本田千鶴(ちづる)役〇〇です

交互にナレーションも読みます

よろしくお願いします

「大丈夫ですか、そんなに飲んで

体に悪いですよ」

電話で呼び出された高橋健治が

酔いつぶれている本田千鶴に声をかける

「マスター、僕も同じので」

差し出された水割りを喉に流し込む

隣の千鶴は、腕を枕に頭を乗せ

こちらに顔を向けている

突き出した深紅の唇

健治は思わず顔をそむけた

「もう結構、飲んでいるんですか?」

マスターは無言のまま笑顔でうなずく

起きた勢いで落とす気がして

千鶴のグラスを遠ざけようとすると

いたずらっぽい甘えた声が聞こえた

「飲んじゃだめだよ、高橋くん」

「えっ?」

驚いて手を引っ込める

寝ていたはずの千鶴が

顔を上げてにっこりと笑う

「の、飲みませんよ

な、なに言ってんですか」

「…さっき、私の唇、見てたでしょ?

キスしたかったの?」

「えっ?」

どうぞとばかりに真っ赤な唇をつき出す

「やめてください」と懇願する健治

「冗談だって。ごめんね

頼まれても嫌だよね」

動揺が隠せない健治が話を切り出す

「ところで、話って、なんですか?」

「えっ、話?聞いてくれるの、私の話?

ありがとねー、私の話聞いてくれるの

君しかいないよ」

そう言って、泣きまねをする千鶴

こんな彼女を見るのは初めてだ

「ねー、誰にも言わない?

会社の人に、言わない?」

甘えた声で、潤んだ瞳を向ける千鶴

「はい、言いません」

両手で右手を包まれた健治は

逃げられないと観念するしかない

「私ね、振られちゃった……」

「えっ?あ、そ、そうですか…

そ、それは、何と言うか、あの…

残念でしたね…」

無言で凝視する千鶴

固まってしまう健治

「残念でしたね」

恋愛経験のない健治には

かける言葉がわからない

「そう、残念なのよ、私

残念な人なのよー。そう、そうなの

やっぱり君は、わかってくれるなぁ

私ね、君が入ってきてから

この子はいい子だなあって思ってたの

真面目で優しいーし

人の悪口も言わないしねー

ほんと、いい子だなーって

思ってたんだよー、私」

ろれつが、かなりあやしい

相当酔っぱらっているようだ

「ねえ高橋くん、歌、歌って

私の心が癒されるような歌

ね、お願い、歌って

マスター、いいでしょ?」

歌には自信がある健治

少しでも慰めになればと

一番得意な尾崎豊を歌い始めた

すると、慌てた様子で止める千鶴

「これは…この歌はやめて…

あの人が好きだった歌なの、これ

ごめん、思い出すから、やめて…」

健治は気まずそうにマイクを置いた

2人以外客がいない店の空気が重い

「ごめんねー、ほんと

歌えって言ったりやめてって言ったり

面倒な女だよねえー

だから振られちゃうんだろうなー

どう思う、高橋くん?」

「えっ?それはどうかわかりませんが

もうお店の迷惑だから帰りましょうよ」

「えー? 嫌だ、帰りたくないー

外はまだ、雨、降ってるでしょ?

いや、傘はあるけどさー

帰ってもさー、誰もいないんだもん

それとも高橋くん

このまま一緒にいてくれる?

私のそばに、いてくれる?」

そう言って健治の肩に寄りかかり

潤んだ瞳で見つめる千鶴

普段と違う無防備な姿に

健治の体は固まって、動かない

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